東京スカパラダイスオーケストラの37年を現代アートとリサーチで読み解く展覧会「TOKYO SKA HAS NO BORDER」が開幕

37年の歩みを「平和への実践」として捉えるリサーチ展示

本展のリサーチを務めた島影圭佑氏は、リサーチを通じて「スカパラの皆さんは平和を実現し、それを広げ続けている存在」という確信に至ったと語ります。東京スカパラダイスオーケストラが“東京スカ”という独自のサウンドを通じて生み出してきた平和のあり方を、アートとリサーチの力によって可視化し、社会へ提示することが本展の出発点となりました。

展示の中心となるダイアグラムでは、GAMO氏と谷中敦氏へのインタビューから導き出された「生命体としての東京スカパラダイスオーケストラ」という視点が可視化されています。GAMO氏が語った「動的平衡」や生命体としての代謝をヒントに、様々な人や音楽との出会いによって変化し続けるバンドの姿を、細胞分裂や循環を想起させる図像で表現。また、メンバーそれぞれが「Paradise Has No Border」を感じた瞬間を基に、37年間の出来事を年輪のような同心円上にマッピングし、「時代」「逆境」「世代」「国境」といったボーダーを越えてきたエピソードが星のように配置され、それぞれの「NO BORDER」の軌跡が星座のように描き出されています。

展覧会内のリサーチ展示

3組のアーティストによる「NO BORDER」の翻訳

本展には、大野修氏、vug氏、小林健太氏の3組のアーティストが参加し、それぞれ異なる表現手法で東京スカパラダイスオーケストラが体現してきた「NO BORDER」を作品へと翻訳しています。

大野修氏:異なる素材の境界を曖昧にする「NO BORDER」

音楽カルチャーを起点に、プラスチックや役目を終えた楽器など日常にあふれる人工素材を組み合わせる「ブリコラージュ」の手法で作品を制作する大野修氏。代表作《Chunk》シリーズの新作4点には、スーツ姿や管楽器、パーカッションのパーツなど、スカパラを想起させる様々な要素が取り入れられています。谷中敦氏の言葉「戦うように楽しむ」から着想を得た佇まいも造形に落とし込まれ、メンバーからは細部の発見に驚きの声が上がりました。

大野氏は自身の制作について、「異なる形や素材を接続し、その境界を曖昧にしていくこと自体が、自身にとっての『NO BORDER』だ」と説明します。異なる素材同士を彫刻によってつなぎ合わせ、新たな一つの存在へと変えていく制作プロセスと、異なる人、ジャンル、文化をつないできたスカパラの思想を重ね合わせました。

大野修氏の作品
大野修氏の作品

さらに、メンバーが実際に使用していたスティックやスネアのヘッドなどを用いた《Synthesizer #2601》も制作。約20個の振動センサーとオシロスコープを搭載し、会場の音や振動を受けて機材がどのように反応するのかを可視化するインスタレーションとして、来場者も作品の循環の一部となる体験を生み出しています。

vug氏:「話し合うこと」から描く、平和とLOVE

ペインティングを中心に表現活動を展開するvug氏は、自身が日常的に描いてきた「LOVE」と「平和」というテーマを接続して作品を制作しています。

東京スカパラダイスオーケストラが何かを決める際に「みんなで話し合って決める」というエピソードから着想を得た作品では、「ああでもない、こうでもない」と対話するメンバーの姿を、vug氏自身が「民主主義的」と感じたことから、複数の人物が寄り合う光景として描き出されました。

vug氏の作品
vug氏の作品

地球の上を歩きながら「LOVE」を叫ぶ人物や、芝生の上で人々が空に浮かぶ風船を眺める風景など、平和や愛をユーモアと無邪気さをもって描いた作品が発表され、会場の壁画にもスカパラという共同体が持つ賑やかさや祝祭性が表現されています。

小林健太氏:写真とデジタル表現で、スカパラの「グルーヴ」を描く

写真家・アーティストとして活動する小林健太氏は、デジタル写真の色情報を引き伸ばし、絵の具のストロークのように変形させる代表的な表現技法「スマッジ」を用いて新作を制作しました。

素材となったのは、写真家・JULEN氏が2023年の東京スカパラダイスオーケストラ ニューヨーク公演で撮影したライブ写真です。複数の写真をコラージュし、その上にスマッジによるストロークを重ねることで、静止したライブ写真の中に音楽の動きや身体性を立ち上げました。

小林健太氏の作品
小林健太氏の作品

小林氏は、昨年開催された「MEET YOUR ART FESTIVAL」でのGAMO氏プロデュースによる特別編成ライブ「Experimental Session produced by GAMO」でのコラボレーション経験に言及。実際のセッションを通して、異なる表現を受け入れるスカパラの音楽性の奥深さとコラボレーションの幅を実感したと振り返っています。今回の作品では、ライブ写真に写り込んでいた蛍光色を大胆に広げながら、体感したスカパラの「グルーヴ」を小林氏自身のデジタル表現へと置き換えています。

インタビューと一次資料から37年前の時間へアクセスする「リサーチエリア」

会場奥のリサーチエリアでは、メンバーそれぞれが語る「Paradise Has No Border」の瞬間を収めたインタビュー映像が公開されています。映像と合わせて、そこで語られた出来事へ実際にアクセスするための一次資料や書籍、雑誌などが展示されており、来場者は当時の時間や空気へアクセスできる構成です。

リサーチエリアの展示
リサーチエリアの展示

特に、1998年から2003年まで東京スカパラダイスオーケストラが主宰・企画した『JUSTA MAGAZINE』は、本展における重要なアーカイブの一つです。島影氏は同誌について「自主的でDIY的な活動の精神性が織り込まれていると同時に、国内のスカ・シーンを盛り上げていく役割を担った重要なメディア」と解説しています。

また、メンバーがインタビューで語った海外公演のセットリストや当時の活動を記録した雑誌などもリサーチによって発掘され、インタビューで語られる記憶と記録された一次資料を行き来しながら、当時の時間や空気を感じることができます。

東京スカパラダイスオーケストラが語る37年と「Paradise Has No Border」

展示を鑑賞したメンバーからは、それぞれの視点で作品や37年間の活動について温かい言葉が寄せられました。

谷中敦氏

谷中敦氏

「垣根のない活動を自分たちもしていくし、みんなもそうあってほしい。僕らは音楽をやっていることで、たくさんの人の笑顔を間近に感じられる職業なので、『世界中がこんなふうにニコニコしていたら本当に平和だよな』ということをずっと思っています。そういうお客さんの笑顔をエネルギーにして、また音楽を作る。それを繰り返してきました。そういう気持ちを汲んで、これだけ多くの方々に作品を作っていただいたことが本当にうれしいです。幸せでしかないです。」

GAMO氏

GAMO氏

「このように深く我々のことを掘り下げていただいて、本当にありがとうございます。37年、自分たちだけではなく、本当に多くの方々のお力をいただいて今に至っていると思います。『動的平衡』という言葉がありますが、まさに僕らも、お客さんだったり、ほかのアーティストだったり、いろいろな方々の力を借りながら、常に新しいところへ向かってきた。気がつけば37年ですが、これからも常にちょっとずつ進化して、皆さんと面白いことを体感できるようなことをやっていけたらと思っています。」

大森はじめ氏

大森はじめ氏

「僕たちは音楽が大好きで音楽をやっていますが、その楽しさを皆さんに伝えて、それぞれにいろいろな感情を持ってもらえたらすごくうれしい。それが平和や愛につながってくれたらいいなという思いも持ちながら演奏しています。今回、僕たちの音楽を感じて、それを作品という形で表現してくださったことが本当にうれしいです。目に見える形になったことで、僕らにもその思いがひしひしと伝わってきました。」

NARGO氏

NARGO氏

「37年やってきて、最初はまだ日本ではほとんど知られていなかったスカという音楽を始めました。気がつけば、自分たちでも計り知れないようなエネルギーを感じながら、いつの間にか僕らなりの“東京スカ”が出来上がっていたんです。バンドにはいろいろなことがありました。人が辞めたり、亡くなったり。そのたびに自分たちで再生して、蘇って、違う生き物として生まれ変わってきたような気がします。そのエネルギーが地球の反対側まで届いて、メキシコでスカパラブームが起きたり、今度はこうしてアートにまでつながっていく。長くやっていると、いいことがあるなと本当に思います。作品を作ってくださった皆さんに、心から感謝しています。」

川上つよし氏

「以前は『音楽で平和を』というと、少し大げさすぎるように感じていました。もちろん、初めて楽器を持った頃にそんなことは全く考えていなかったので、簡単には言えないと思っていたんです。でも、最近の演奏や出会いを通して、本当に音楽は平和につながるんじゃないかと思うようになりました。37年やっていても、こうして自分たちの心境はどんどん変わっていくんだなと感じています。スカパラは、出来上がったものを一方的に発信し続けるのではなく、刻一刻と変わり続けているバンドです。今回、アーティストの皆さんが、そんな僕らにそれぞれ違う角度から光を当ててくださったことを、本当にありがたく思っています。」

開催概要

本展では、アート、リサーチ、アーカイブという複数の視点を往還しながら、東京スカパラダイスオーケストラという“生命体”が37年間にわたり更新し続けてきた「NO BORDER」の思想を体感することができます。

会場となるWALL_alternativeは、建築家ナイジェル・コーツ氏が手がけた築37年の建築を活用したアートスペースです。東京スカパラダイスオーケストラと同じく37年という時間を刻んできた建築で開催されることも、本展ならではの象徴的な要素となっています。

  • 会期: 2026年8月11日(火)~8月29日(土)※会期中無休

  • 会場: WALL_alternative(東京都港区西麻布4-2-4 1F)

  • 営業時間:

    • 土・日 16:00~24:00

    • 月~金・祝日 18:00~24:00

    • ※会場では「NO BORDER」プレイリストをBGMとして放送(一部時間帯を除く)

  • 入場料: 入場無料 ※ワンドリンク制 ※優先入場時間は事前予約制

  • 主催: エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社

  • 企画: エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社/島影圭佑

  • 公式サイト: