元ロードスター開発主査 貴島孝雄氏が次世代へ「智の伝承」 ニュートンワークスが広島でセミナー開催

貴島孝雄氏の講演詳細

1. 伝説の「人馬一体」を支える動的クラフトマンシップ

マツダ・ロードスターの象徴である「人馬一体」のコンセプトについて、貴島氏は単なる感性的なスローガンではなく、徹底的に工学的な数値へと落とし込んだプロセスを詳しく解説されました。「人馬一体」の本質は、ドライバーの意図通りにクルマが反応する「鏡のような応答性」にあるといいます。

3代目(NC型)の開発では、ヨー・ロール・ピッチという3軸の動きをいかに緻密に制御し、1グラム単位の軽量化(「グラム作戦」)を積み重ねて慣性モーメントを最小化したかが語られました。特に印象的だったのは、視界や操作系の触感にまで及ぶ「動的クラフトマンシップ」の概念です。例えば、Aピラーの見開き角度をミリ単位で調整することで、コーナリング時のクリッピングポイントを見やすくし、ドライバーに「思い通りのラインを走れる」という安心感を与えるといった具体的な話がありました。このような「数値化しにくい感性」を人間中心設計によって具現化するプロセスこそが、世界中で愛されるオープンスポーツカーを創り上げた「智」の正体であることが示されました。

人馬一体のコンセプトを語る貴島孝雄氏

2. 「モノと心の一体化」:ホルモンシャワーを設計する

講演の後半では、元マツダ社長・山本健一氏が提唱した「自動車文化」の精神を深掘りし、製品開発における「感性価値」の重要性が説かれました。貴島氏は、優れたクルマを操る際に人が感じる喜びを、医学的・心理学的知見から「ホルモンシャワー」と表現しました。

操作と挙動が一致することで生まれる「安心感」はセロトニンを、思い通りに曲がれた際の達成感や「もっと走りたい」という高揚感はドーパミンを、そしてリズミカルな運転がもたらす没入状態(フロー状態)はエンドルフィンを分泌させるといいます。これらの脳内物質が分泌されるほどの感動体験を設計することこそが、工業製品を「文化」へと昇華させる「こころづくり」であると主張されました。「良い車とは、所有する喜びだけでなく、常に接していたい、共にいたいと思わせる存在であるべきだ」という言葉には、EV化という無機質になりがちな技術革新に直面する現代のエンジニアに向けた、熱いメッセージが込められていました。

感性工学のすすめを講演する貴島孝雄氏

3. 「温故知新」の精神:変革期を生き抜くエンジニアへの提言

セミナーの締めくくりとして、貴島氏は広島の地が生んだ「飽くなき挑戦」の歴史に触れました。原爆の惨禍から立ち上がった広島の精神は、「人を大切にする人間中心思想」に根ざしています。

かつての苦境を、ロータリーエンジンの実用化や数々のモータースポーツへの挑戦で乗り越えてきた先達の歩みは、まさに「温故知新」そのものです。過去の試行錯誤から「不変の真理(智)」を学び取り、それを現代の最新技術と融合させることの重要性が語られました。EV化という大きな変革期においても、技術者は単に「スペック」を追うのではなく、その技術の先にいる「人間」を見つめ、心を震わせる製品を創り出さなければならないという、エンジニアとしての「魂の継承」が強く訴えかけられました。

マツダ創業者のものづくり思想に関する講演風景

ニュートンワークスが提案する「考える設計CAE」

ニュートンワークス株式会社CAE総合開発センターの田中友和氏からは、貴島氏が語られた人間中心の開発や、クルマで考える設計を現場でいかに効率的・論理的に実現するかについて、3つの最新技術が提案されました。

SimulationX Driving Maneuversにコンポーネントのモデルを接続し、「車両全体の挙動」からコンポーネントが受ける影響、そしてコンポーネントが車両全体に及ぼす影響を計算し、設計にどう活かすかが示されました。また、SimulationXで車両全体をモデル化して入力荷重を導き出し、トポロジー最適化ソフトウェアOPTISHAPE-TSを用いて「理想の形」を創り出す技術についても紹介。さらに、OptiYによるデータサイエンスで社内に眠るCAEや実験データを用いて設計空間を可視化する技術も紹介されました。

SimulationX Driving Maneuversの解説スライド

開催概要

  • テーマ: 「智の伝承」広島発!感性重視のものづくりと、考える設計CAEセミナー

  • 日時: 2026年04月21日(火) 13:30~16:30

  • 会場: 広島県情報プラザ 多目的ホール

  • 登壇者: 山口東京理科大学 名誉教授 貴島 孝雄 氏 / ニュートンワークス株式会社 田中 友和

  • 主催: ニュートンワークス株式会社

  • 後援: 公益財団法人ひろしま産業振興機構 カーテクノロジー革新センター

本セミナーの詳細については、以下のページをご覧ください。
https://www.newtonworks.co.jp/event-seminar/2026/0421131505.html

講師プロフィール

貴島 孝雄(きじま たかお)氏

元マツダ株式会社で、2代目RX-7(FC)のシャシ開発、ル・マン優勝車「787B」の車体・シャシ設計を担当しました。さらに、2代目(NB)と3代目(NC)ロードスターの開発主査(PM)を歴任した、日本のスポーツカー開発におけるレジェンドです。

貴島孝雄氏のポートレート

「智の伝承」とは?

「智の伝承」は、一流ベテランエンジニアが持つ知恵、ノウハウ、考え方、経験談、失敗談といった「日本の智恵」を、現役エンジニアたちに伝える場を作る企画です。日本全体を一つの会社と捉え、大先輩のエンジニアから教えを受け、日本の製造業がグローバルで活躍できることを願って展開されています。本企画は、日本の製造業に支えられているニュートンワークス株式会社のお客様への感謝の気持ちから企画されています。

SimulationXとは?

Keysight Technologiesが開発する1DCAEソフトウェアです。操作性が良く、専任者だけでなく現場の設計者や実験担当者にも展開しやすいGUIが特徴です。日本ではニュートンワークス株式会社が販売しています。

OPTISHAPE-TSとは?

株式会社くいんとが開発する、世界トップクラスの技術を誇るノンパラメトリック構造最適化ソフトウェアです。トポロジー(位相)最適化、形状最適化、ビード最適化といった多彩な手法を駆使し、製品の剛性最大化や固有振動数制御、軽量化を実現するための「理想的な形状」を数学的根拠に基づいて自動的に導き出します。日本のものづくり特有の緻密な製造要件を考慮できる制御機能が、自動車、航空宇宙、精密機器、建設機械といった幅広い分野のエンジニアから極めて高い信頼を得ています。

ニュートンワークスとは?

CAE(Computer Aided Engineering)を事業の核に据え、高度な技術力で製造業を支える独立系エンジニアリングソリューションプロバイダーです。製品の物理的な挙動をミクロな視点で捉えるFEM(有限要素法)解析から、システム全体の振る舞いを上流工程でマクロにモデル化する1DCAE(システムシミュレーション)まで、製品開発の全フェーズを網羅する広範なソリューションを提供しています。また、長年のサポートやコンサルティングで培ったノウハウを凝縮した自社開発ソフトウェア群「NewtonSuite」を展開している点も大きな特徴です。これらの最新ソフトウェア販売に加え、経験豊富なエンジニアによる高度な解析コンサルティング、受託解析、専門的な技術トレーニングまでをワンストップで提供し、自動車、エネルギーなど多岐にわたる産業分野において、日本の製造業が直面する課題を技術の力で解決し、次世代の製品開発をトータルにバックアップしています。

ニュートンワークス株式会社のウェブサイトはこちらです。
https://www.newtonworks.co.jp/