開会挨拶:気づきとつながりを持ち帰る場
開会にあたり、福岡県商工部先端技術産業振興課の小野昌志企画監は、参加者の皆様がビジネスのヒントや気づき、そして人とのつながりを持ち帰る場にしてほしいとの期待を述べました。当日は想定を上回る100名近くの方が参加し、宇宙輸送、特にロケットと射場への関心の高さがうかがえました。
また、福岡県が宇宙ビジネスへの参入を検討する企業や、参入後の事業展開に悩む企業を支援する「福岡県宇宙ビジネスプロモーター」を設けていることも紹介されました。プロモーターが会場で相談に応じる体制も整えられ、参加者にとって心強いサポートとなりました。

JAXAが描く民間輸送時代と地域サプライチェーン
JAXA研究開発部門の吉田誠氏は、約40年にわたる液体ロケットエンジンの研究開発経験を基に講演しました。
角田宇宙センターの研究開発
角田宇宙センターは、液体ロケットエンジンやターボポンプなどの主要構成品の研究開発、真空環境における上段エンジンの試験を実施しています。H3ロケットのLE-9エンジンだけでなく、再使用型輸送系、水素航空機、スクラムジェットなど、将来輸送システムに関する研究も進められています。再使用エンジンでは、目標100回に対し142回の再使用試験に成功し、その後を含めると160回を超える実績を得ています。
H3ロケットとサプライチェーンの課題
H3ロケットの部品点数は約100万点、サプライチェーンは約1,000社に及びます。政府は2030年頃に年間少なくとも30回程度、H3についても年間8~10回程度の打ち上げを目指していますが、現在の製造・試験体制は年間3~4回の打ち上げを前提としています。打ち上げ回数を倍増させるためには、ロケットの製造能力、射場作業、試験場のキャパシティ、サプライヤーの供給能力を同時に拡張する必要があり、必要なサプライチェーンの不足が今後の大きな課題の一つであると吉田氏は強調しました。

宇宙産業市場は、2030年代に約8兆円、2040年代には約15兆円へ拡大すると見込まれており、ロケットや衛星だけでなく、その周辺に生まれるサービス産業の成長が期待されます。
官民共創と地域連携の推進
JAXAは、民間ロケット企業のエンジン開発を支援するため、角田宇宙センターに官民共創推進系開発センターを整備しています。JAXAが使用してきた試験設備を民間利用に開放し、設備貸与だけでなく、開発相談からデータ解析、次段階の開発方針まで一体的に支援する構想です。東北地方では、角田の液体ロケットエンジン試験設備、能代の固体ロケット試験設備、南相馬周辺の宇宙輸送系ベンチャーを結び、人材育成や実証試験場の確保、周辺産業への波及を目指す取り組みが紹介されました。国内衛星を国内ロケットで打ち上げ、海外需要も取り込むためには、地域単位で効率的な開発・製造・試験体制を構築することが重要です。

スペースワンが目指す「宇宙宅配便」
スペースワン株式会社企画・営業本部の宝蔵蓮也氏は、小型ロケット「カイロス」と、和歌山県の射場「スペースポート紀伊」を紹介しました。同社は「宇宙宅配便」をコンセプトに、必要な衛星を、必要な時期に、希望する軌道へ届ける利便性の高い宇宙輸送サービスを目指しています。
小型ロケット「カイロス」とスペースポート紀伊
スペースワンは2018年に設立され、大企業の技術・資本・事業基盤とスタートアップのスピードを組み合わせ、2024年に初号機の打ち上げに至りました。カイロスは高さ18メートル、直径1.5メートルの小型固体ロケットで、太陽同期軌道へのペイロード能力は約150キログラムです。民生用電子部品も活用し、高信頼性と低コストの両立を図っています。2030年代後半には年間30回の打ち上げを目指し、将来的には衛星受領後4日で打ち上げる即応性の実現を構想しています。
スペースポート紀伊は和歌山県最南端の潮岬付近に位置し、種子島と比べてコンパクトな射場です。カイロスはファブレスに近い体制で、各セグメントや部品を搬入し、組み立てと点検を繰り返した後、射点上で結合されます。
アジャイル開発と新規参入の機会
同社は、試作と検証を繰り返すアジャイル型の開発を重視しており、民間ロケットではスピードとコストを両立するため、宇宙実績だけにこだわらず、民生品や異業種の部品も検討しています。新規参入の機会は、新型ロケットの開発、ブロックアップデート、量産設備の更新時に生まれやすいでしょう。年間20~30機体制を実現するには、生産管理、低コスト化、運用効率化、品質保証、部品、治具、ハーネスなどの新たな技術とノウハウが求められています。

九州工業大学によるハイブリッドロケット構想
九州工業大学の田中一晃氏は、ハイブリッドロケットによる安全かつ低コストな宇宙輸送構想を紹介しました。ハイブリッドロケットは、プラスチック燃料と酸化剤を組み合わせる方式であり、固体・液体ロケットに比べて爆発リスクを抑えやすく、安全管理コストの削減が期待されます。
安全性と低コスト化への挑戦
目標は、飛行機並みの事故率100万分の1級の安全性と、現在の10分の1の打ち上げコストです。独自の「A-SOFTハイブリッドロケット」技術によって、安全性向上と低コスト化を同時に追求しています。ロードマップでは、高度1キロメートル級の実証から始まり、超小型観測ロケット、衛星打ち上げ、将来の有人打ち上げへと段階的に展開し、2035年頃のサービス開始を見据えています。
広がるパートナーシップの領域
法人化の準備や外部専門家、ベンチャーキャピタルとの連携も進められています。必要なパートナー領域は、ノーズコーン、センサー、タンク、機体構造、機械加工、3Dプリンティング、計測・品質保証、液体・高圧技術、制御、解析、試験、インフラ提供など幅広い分野にわたります。田中氏は、設計段階から福岡のものづくり企業に相談し、共同開発を進めていきたいと呼びかけました。

パネルディスカッション:宇宙輸送産業のサプライチェーン最前線
後半は、九州工業大学の前田恵介氏をモデレーターに、スペースワン、コスモテック、九州工業大学の登壇者が、福岡・九州における産業機会と参入方法について活発な議論を交わしました。

ロケット現場で求められるもの
スペースワンからは、試験機の打ち上げは現状のサプライチェーンで何とか成立しているものの、今後量産を見据えると、量産に耐えうるノウハウ、事業部門・調達・現場の体制、低コスト化技術が喫緊に必要になるとの認識が示されました。特に、スペースワンが社員100人未満の規模でロケットを製造・打ち上げている現状を踏まえ、「人」が最も不足している資源であり、技術職だけでなく企画、営業、広報、調達などあらゆる職種で人材が求められていると述べられました。
九州工業大学の北川幸樹氏は、「本当はできるのに、できると思っていない人が多い」と指摘。宇宙業界は特殊に見えがちですが、自動車産業や製造業で培われた品質、加工、保全、設計、現場改善の力は、宇宙産業でも十分に生かされると語りました。
具体的な技術ニーズ
具体的なニーズとして、まずハーネス(電気ケーブル)が挙げられました。量産化が進むと、ケーブルや電装系の組み立て・品質保証・軽量化が大きな課題となり、機体が30機規模になると供給が深刻なボトルネックになる可能性が示されました。
治具についても、単に図面通り加工するだけでなく、設計段階から一緒に考え、作業性、安全性、軽量化、確実性を追求できる企業が求められています。ロケット現場では、課題を聞き、提案できるパートナーが不可欠です。
北川氏は、計測技術や3Dプリンティング技術への期待も述べました。極低温、高圧、高温燃焼といったロケット特有の厳しい条件はあるものの、既存産業で使われている計測技術が応用できるケースは多く、3Dプリンティングは薄肉・複雑形状・高性能燃焼部品の設計自由度を高める有望な技術です。
福岡・九州企業の強み
福岡・九州企業が持つ強みとして、登壇者からは、九州にはすでに稼働している射場が複数あり、大分などでもスペースポート構想が進むなど、宇宙輸送との地理的な近さが指摘されました。鹿児島、和歌山、四国など西日本に広がる打ち上げ・試験・輸送の拠点と連携しやすいことは、九州企業にとって大きな利点です。
さらに、北九州をはじめとする福岡には、鉄鋼、機械加工、大企業ラインを支える町工場、量産設備、保全、品質管理などの厚い基盤があります。実際に、「これがないとロケットが飛ばない」という部品を作っている企業や、日本でそこにしかできなかった高圧ガス関係の技術を持つ企業が存在するとも語られました。福岡・九州にはまだ可視化されていない強みが眠っているとの期待が示されました。
宇宙分野は品質要求が高すぎると考えられがちですが、ものづくり企業の多くはすでに高い品質水準を持っており、宇宙向けの要件も十分にクリアできる可能性があります。必要なのは、要求を学び、相談し、共同で改善していく関係を築くことでしょう。
参入への第一歩
参入方法については、登壇者全員が「まずは名刺交換し、情報交換し、直接話すこと」と一貫して述べました。事業案内のパンフレットだけでは、会社の技術力、現場感、意欲、応用可能性は伝わりません。会って話すことで、「その技術はロケットのこの部分に使える」「衛星のここに応用できる」といった発見が生まれると期待されます。
スペースワン側からは、展示会などで多くの提案を受けているものの、調達部門も現場も多忙であるため、まずは名刺交換やメールで資料を送り、関心が合えば現場・調達につなぐ形になると説明されました。資料だけで判断するのは難しいため、可能な限り直接会って話すことが重要です。コスモテック側も、特別な入札制度があるというより、人づて、現場づて、信頼関係を通じて仕事が広がると述べました。
人材育成と新たな参入領域
人材について、コスモテックの平山氏は、現場作業者はOJTで育てると説明しました。理系大学出身である必要はなく、機械に触れてきた経験があり、現場で感覚をつかみ、責任感を持って作業できる人が求められます。ロケット現場では、ネジ一本を締めるにも失敗できないため、手順、確認、チームでの作業、現場の感覚が重視されます。
平山氏は、コスモテックが進める予防保全の取り組みも紹介しました。従来の周期的な保全ではなく、実際の使用期間を調査し、交換時期や保全方法を見直す改善提案を顧客に対して継続しています。この話は、宇宙産業への参入がロケット部品そのものの製造に限られないことを示しています。保全、設備、点検、改善提案、現場の作業性向上、安全管理、運用効率化といった領域にも、福岡・九州企業が持つ技術と経験を生かす余地があります。
ロケットは技術であり、コンテンツでもある
スペースワンからは、民間企業ならではの広報・営業・事業開発の側面も語られました。カイロス3号機ではクラウドファンディングを実施し、一般の人々にスペースワンを知ってもらい、応援してもらう取り組みが行われました。広告掲出、グッズ制作、地域との盛り上げなど、ロケット打ち上げを技術だけでなく、メディア、コンテンツ、ビジネスとして広げる活動も重要です。
宇宙産業の裾野は、ロケットや衛星の製造にとどまらず、エンターテインメント、教育、観光、実験サービス、データ利用、地域振興、広報、ファンコミュニティ形成など、周辺領域が大きく広がっていくでしょう。登壇者は、ビジネスサイドでのコラボレーションにも期待を示し、宇宙を「どう使うか」「どう盛り上げるか」も今後の産業成長に不可欠だと語りました。

まとめ:福岡・九州から宇宙輸送サプライチェーンへ踏み出すために
今回のミートアップを通じて浮かび上がったのは、宇宙輸送産業がまさに量産化、民間化、地域化の転換点にあるということです。日本のロケットは、年間数回の打ち上げを前提とした体制から、年間30回規模の打ち上げを見据えた体制へと移行しようとしています。そのためには、ロケットメーカーやJAXAだけでなく、地域の製造業、保全企業、IT企業、設備企業、品質保証、計測、加工、広報、教育、金融、行政が一体となる必要があります。
福岡・九州には、ものづくりの蓄積、品質管理の文化、現場改善力、大企業の生産ラインを支えてきた町工場のノウハウ、そしてロケット・射場に近い地理的な優位性があります。登壇者が繰り返し語ったように、宇宙産業は特殊に見えても、すべてが特殊な技術で成り立っているわけではありません。むしろ、既存産業で磨かれてきた技術や現場力が、まだ知られていない形で宇宙に使える可能性は十分にあります。
参入の第一歩は、難しい申請書を書くことでも、大規模な投資を決めることでもありません。まず話すこと、自社の技術を伝えること、相手の現場課題を聞くこと、そして「自分たちにもできる」と考えることでしょう。福岡県の支援体制、宇宙ビジネスプロモーター、大学、民間企業、JAXAの取り組みを活用しながら、地域企業が次の宇宙輸送サプライチェーンを支える担い手になる可能性は十分に期待されます。
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