新築マンション減少時代における立地選別:マンション開発を引き寄せる新幹線停車駅

建築工事費の高騰と「実質コスト」の急上昇

近年、建築工事費の上昇は顕著であり、それに伴い新築マンション価格も大きく高騰しています。特に、物価変動の影響を除いた「実質的な建築コスト」を示す建築工事費デフレーターは、2020年前後を境に急激な上昇を見せています。資材価格の高騰、労務費の上昇、サプライチェーンの混乱といった複合的な要因が重なり、2025年時点では2000年比で約20%の上昇となっています。これは単なるインフレではなく、構造的なコスト上昇局面に入っていることを示唆しています。

建築工事費デフレーターの年次推移

用地取得の困難化と新築マンション供給の減少

建築コストの上昇に加え、マンション開発における用地取得も年々困難になっています。特に都市部では優良な立地の用地が限られ、競争入札により取得価格が高騰しやすい状況です。地方都市では、人口動態や需要の見通しから開発自体の成立性が厳しくなるケースも増えています。これらの背景から、日本全体の新築マンション竣工棟数は減少傾向にあり、供給の絞り込みが進んでいるのが現状です。

新築マンション分譲棟数の年次推移

デベロッパーの選別が強まる時代

このような市場環境下において、デベロッパーの開発判断はより慎重になっています。「確実に売り切れるか」「想定価格を維持できるか」といった収益確度が強く問われるようになり、エリアのポテンシャルを精緻に見極める必要があります。特に地方都市や準都市圏では、需要の裏付けが弱いエリアでの新規供給が見送られるケースも少なくありません。

新幹線駅周辺が「選ばれる立地」である理由

こうした中で、開発対象として比較的選ばれやすいエリアの一つが「新幹線停車駅周辺」です。新幹線駅は、単なる交通拠点に留まらず、広域アクセスを担保する重要なインフラであり、当該エリアの価値を大きく高める要素となります。地方都市においても、新幹線によって大都市圏との移動時間が短縮されることで、ビジネス、観光、居住といった複数の需要が重なりやすくなります。これは、ローカル需要に加えて広域需要を取り込める「拡張性のある市場」であり、デベロッパーにとってリスクを抑えた開発が可能となるエリアと言えるでしょう。

新幹線停車駅ランキングに見る供給の集中

実際に、新幹線停車駅を擁する市区町村におけるマンション供給動向を見ると、その傾向は明確です。2025年以降に竣工(予定)されるマンションの割合を基にしたランキングでは、福山駅、高崎駅、岡山駅、鹿児島中央駅、京都駅といった駅が上位に並びます。これらのエリアはいずれも都市機能と広域アクセスを兼ね備えており、新築マンション開発が相対的に活発に行われていると考えられます。

新幹線停車駅における新築マンション割合ランキング

中でも注目すべきは岡山駅です。直近では大手デベロッパーによるブランドマンション「プラウドタワー岡山」や「Brillia岡山中山下」といったプロジェクトが竣工(または竣工予定)となっており、地方中核都市においてもハイグレードなマンション供給が成立していることが確認できます。これらは建築コストの上昇を織り込んだ高価格帯での供給にもかかわらず、需要が成立している点が重要です。すなわち、立地と商品企画が適切であれば、高価格でも市場は受け入れる余地があることを示しています。

新築と中古マンションの関係性:需給が価格に与える影響

新築マンションと中古マンションは「居住」という観点において代替関係にあります。新築価格が上昇すれば、相対的に割安感のある中古マンションへと需要がシフトします。特に現在のように実需が底堅い局面では、この動きはより顕著に表れます。新築の価格が手の届きにくい水準に達することで、購入検討者の一部が中古市場へ流入し、結果として中古需要が押し上げられる構造となります。

一方で、中古マンションの供給は既存ストックに依存するため、短期的に大きく増やすことができません。このため、需要が増加する局面では需給が逼迫しやすく、価格は徐々に上昇していきます。最終的には、新築マンションとの価格差が意識されながら、中古価格が新築価格に近づく形で上昇すると考えられます。この構造こそが、新築マンションが市場全体の価格を牽引する「プライスリーダー」として機能する所以です。

今後のマンション市場分析に必要な視点

「マンション価格が上がっている」「下がっている」といった議論を行う際には、その対象エリアを明確にすることが不可欠です。全国一律で同じ動きが起きているわけではなく、実際にはエリアごとに需給構造や価格動向は大きく異なります。特に新幹線停車駅のように広域需要を取り込めるエリアでは価格上昇が持続しやすい一方、需要の裏付けが弱いエリアでは市場の停滞も起こり得ます。

今後のマンション市場を読み解く上では、建築コストというマクロ要因に加え、エリアごとの需要特性や供給構造を丁寧に分析することがこれまで以上に重要になります。単純な価格の上下だけでなく、「どのエリアで、なぜその動きが起きているのか」を捉える視点こそが、今後の市場分析において求められる本質と言えるでしょう。

筆者プロフィール

福嶋 真司氏

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社 データ事業開発室 不動産データ分析責任者
福嶋総研 代表研究員

早稲田大学理工学部を卒業後、大手不動産会社でマーケティング調査を担当。その後、建築設計事務所で法務・労務に携わりました。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発を行う傍ら、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを提供しています。また、大手メディアや学術機関にもデータおよび分析結果を提供しています。

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