人口減少社会の新たな都市像を探る「Post Growth City Lab」が熊本エリアのフィールドリサーチ報告書を公開

「Post Growth City Lab」プロジェクトの概要

PGCLは、人口減少や気候変動、経済動向の急激な変化といった現代社会の背景を踏まえ、「これからの都市や街はどうあるべきか」「不動産業は暮らしの未来とどう関わるのか」という問いに向き合うために立ち上げられました。株式会社Zebras and Companyと日鉄興和不動産株式会社の総合研究所「Future Style総研」が共同で推進しています。

共創パートナーとして株式会社NEWLOCALと株式会社リ・パブリックを迎え、生成AIを活用した定量的なマクロリサーチと、現場でしか捉えられない定性的なフィールドリサーチを組み合わせることで、都市システムへの介入機会を探っています。2025年5月から2026年11月までの調査期間中に合計5地域でのフィールドリサーチが予定されており、他都市・他地域へ展開可能な指標とモデルの構築を目指しています。

PGCLでは、地域を「ブロック拠点」「ハブ拠点」「小さな拠点」の3層構造で捉え、「経済」「文化や資源」「生活インフラ」「暮らし方」の4要素を掛け合わせた独自の分析フレームを用いています。

熊本エリアが第二弾フィールドに選定された理由

第一弾の別府調査で十分に検証しきれなかった以下の3つの観点を補完するため、熊本エリアが選定されました。

  • 明確なブロック‒ハブ拠点間の関係性を持つ都市: 熊本市を中心とする「熊本連携中枢都市圏構想」が推進されており、広域行政や高度医療、基幹大学、大規模商業集積などの都市機能を持つことから、ブロック拠点と周辺ハブ拠点の接続と機能分担が検証できるとされました。

  • トップダウン型産業構造が都市形成に大きく関与する都市: 「くまもと半導体産業推進ビジョン」とTSMC誘致による設備投資・公共投資により、県の令和8年度名目域内総生産(GRP)は過去最高を更新する見込みです。行政主導の産業再編が地域に与える影響を検討できる点が重視されました。

  • 大規模基盤インフラ(水・エネルギー・交通など)を内包する都市: 豊かな水資源が農畜産業や半導体産業を支え、九州の陸路の要衝として交通インフラも整備されているため、大型インフラと3層構造の関係を調査するのに適していると判断されました。

熊本で得られた2つのKey Learnings

調査を通じて、地域が持つ資本を外部環境の変化の中で生かし、その価値を圏域の内側へ循環させていく構造が明らかになりました。これは次の2つの構造原理から成り立っています。

Key Learning 1|地域アセットの戦略的活用 ― 眠っていた地域の資本が、外の変化で「戦略的な価値」に変わる

熊本の地域アセット(産業エコシステム、インフラ、地下水)が、台湾有事リスク、半導体需要拡大、経済安全保障政策、意思決定迅速化といった外部環境の変化に対応し、TSMCのグローバル生産ネットワークに統合される戦略的活用プロセスを示した図です。

地域がもともと持っている資本(自然・産業・文化・人のつながり)は、外部環境の変化と重なることで、地域を超えた大きな価値を帯びることがあります。熊本の豊富な地下水や長年の産業蓄積は、台湾をめぐる地政学リスク、経済安全保障政策の強化、AIによる半導体需要の急拡大といった複合的な外部環境の変化と重なることで、国家レベルの「戦略的な資本」へと変貌しました。TSMCの熊本進出はその象徴的な事例です。

ただし、価値が外部要因に強く依存するほど不安定さも伴います。そのため、生み出された富を地域の文化・産業・インフラへ再投資し、短期的な成長を地域が長く変化に耐える力へと転換できるかが問われることになります。

Key Learning 2|「ブロック」という圏域の捉え方の更新 ― 地域は1つの都市ではなく、共通の資本でつながる“圏域”で捉える

画像は「階層構造モデル」と「圏域モデル」の2つの概念図を示しています。階層構造モデルはブロックとハブ、小さな拠点の静的な従属関係を、圏域モデルはハブと小さな拠点が複雑に絡み合い圏域を形成する様子を説明しています。

PGCLは、地域を単独の市町村ではなく、生活や経済の実態でつながる広範なまとまり「ブロック(圏域)」として捉えることを提唱しています。今回の熊本調査では、阿蘇カルデラから熊本平野に至る一帯が、熊本市やTSMCが進出した菊陽町を中核とする一つのブロックとして機能していることが明らかになりました。このブロックの3層構造(ブロック拠点、ハブ拠点、小さな拠点)全体を貫き、結びつけていたのが「水」でした。

水は地域全体を横断する「共通の資本」として機能し、それを守る誇りと、枯渇への危機感が、産・学・金をまたぐ協働(熊本ウォーターポジティブ・アクション)を生み出しています。このことから、ブロックは拠点同士の直接的なつながりだけでなく、共通の資本や共通の課題を「のりしろ」として結びつくものであり、その自立には内側で価値を循環させる力(域内循環)と外部とつながる力(外部接続)の両立が不可欠であるという、圏域の新たな捉え方が導かれました。

これら2つの構造原理を重ね合わせることで、外部環境の変化を機会として取り込みながら、その価値を圏域の内側へ循環させていく、ブロック拠点・熊本の持続可能性の条件が見えてきます。

今後の展開とオンライン報告会

今後のフィールドリサーチでは、都道府県境をまたぐ生活・経済の実態からブロックの境界をどう捉えるか、また産業集積が域内でどのように循環するかを、引き続き複数地域で検証していく予定です。これらを通じて、不動産・事業開発における具体的な投資機会の検証と、他都市・他地域へ展開可能な指標・モデルの開発が進められます。

本報告書に関するオンライン報告会が、2026年8月6日(木)18:00から開催されます。レポートの背景や調査で得られた知見について、発表者から直接聞くことができる貴重な機会です。

Post Growth City Labのオンラインイベント告知画像。8月6日18時より、熊本をテーマにしたフィールドリサーチ第2弾の報告会が開催され、地域アセットの戦略的活用について議論されます。

オンライン報告会 開催概要

  • 日時: 2026年8月6日(木) 18:00~19:00

  • 発表者: 日鉄興和不動産 Future Style総研 佐藤有希氏、Zebras and Company 阿座上陽平氏、Re;public 増井尊久氏

  • 申込URL: https://peatix.com/event/5089972

主催者からのコメント

日鉄興和不動産 Future Style総研の佐藤有希氏は、熊本でのフィールドリサーチを通じて、地域固有の資本が外部環境の変化と重なり合うことで「戦略的な価値」を帯びていくダイナミズムを強く感じたと述べています。同時に、その価値を短期的な成長で終わらせず、地域へ再投資し循環させ続けられるかが持続可能性の分かれ目になると実感しているとのことです。人口減少という不可逆な潮流の中、不動産・都市開発には、地域の資本が循環し続ける仕組みそのものを設計する役割が求められるとし、本プロジェクトを通じて地域固有の資本を生かした価値循環の仕組みと事業化の可能性を探究していく考えを示しました。

屋外で笑顔を見せるショートヘアのアジア人女性のポートレートです。彼女は青緑色のシャツを着用しており、背景は緑豊かな自然がぼかされています。

Zebras and Company 代表取締役の阿座上陽平氏は、今回の熊本調査では、単一の都市や企業ではなく「ブロック」という圏域の単位で地域を捉え直すことの意義が、現地での対話を通じて明らかになったとコメントしています。水という共通資本が3層の拠点を貫き、地域のインフラ企業が都市づくりの主体として動いている状況から、域内で価値を循環させる力と外部と接続する力の両立が、これからの地域経済の鍵になると考えているとのことです。5地域を予定するフィールドリサーチはこれで2地域目であり、各地域固有の持続可能なモデルと、それを支える事業・投資の余地を、プロジェクトメンバーと共に具体的に探っていく意向を示しました。

緑豊かな背景を背に、白いシャツを着たアジア人男性がカメラに向かって明るい笑顔を見せているポートレート写真です。親しみやすい表情が特徴的です。

報告書の入手方法

報告書全文(PDF)は、下記URLよりダウンロードいただけます。

https://futurestylesoken.jp/pgcl/wp/wp-content/uploads/2026/07/c2b14e6960a1b4386eeee19b91059871.pdf

プロジェクト参画企業について

Future Style総研

緑色の大きな「F」と、その右に「FUTURE STYLE 総研」という文字が配置されたロゴマークです。企業や研究機関のブランディングを示すデザインです。

  • 設立: 2025年4月1日

  • URL: https://futurestylesoken.jp/

  • 活動内容: 未来から発想し、暮らしや働き方などの様々なシーンを未来思考で見つめ、研究することで、人生を豊かにする「新しい価値」の創出を目指す研究所です。

  • 運営: 日鉄興和不動産株式会社

株式会社Zebras and Company

  • 設立: 令和3年3月12日

  • URL: https://www.zebrasand.co.jp

  • 活動内容: 「ゼブラ企業」という概念の認知拡大とコミュニティづくり、社会実装のための投資や経営支援を行っています。

  • 代表取締役: 阿座上陽平、田淵 良敬

  • 社外取締役: 小林 味愛

  • 監査役: 三尾 徹

株式会社リ・パブリック

  • 設立: 2013年04月

  • URL: https://re-public.jp/

  • 所在地: 東京都文京区湯島 2-26-5 藤井ビル 1F

  • 事業内容: イノベーションエコシステムの研究・設計、文化・資源リサーチなど

  • 代表者: 共同代表 田村 大

株式会社NEWLOCAL

  • 設立: 2022年7月

  • 所在地: 東京都中央区日本橋小舟町14-7

  • URL: https://www.newlocal.co.jp/

  • 事業概要: 建築、不動産、エリア開発の企画・開発・運営およびコンサルティング、まちづくり、地域活性化に関するコンサルティング、地域商社の設立・経営・運営

  • 代表者: 代表取締役 石田 遼