東大松尾研・PKSHA・Anthropicが「Japan AI Index」を構築へ – AIの社会影響を客観的に可視化

Japan AI Index構築の背景:AI普及下における事実に基づく議論の必要性

日本の労働人口減少が加速する中で、AIを活用した生産性向上が産業競争力維持のための重要な課題となっています。しかし、AIの利活用を適切に進めるためには、その普及状況や働き方、雇用、産業への影響をエビデンスに基づいて把握することが不可欠です。

現在、日本には、日本固有の産業構造や雇用慣行を踏まえてAIの社会影響をデータで示せる観測基盤が存在していません。米国ではAnthropicが、匿名化されたClaudeの利用データをもとにAIの利用実態を分析した「Anthropic Economic Index」を公開するなど、先行する取り組みが見られます。Japan AI Indexは、このような知見を日本の実情に合わせて詳細化し、独自の観測基盤として確立することを目指しています。

Japan AI Indexの概要:LLM利用統計と国内経済データの統合

Japan AI Indexは、大学の学術的中立性、LLM開発企業が持つLLMの利用実態統計データ、そして産業実装企業の現場知見を掛け合わせることで構築されます。松尾研究室が中立的な分析設計を主導し、AnthropicがClaudeの利用統計データを提供、PKSHAが産業界におけるAI実装の知見を提供します。

この基盤は以下の2系統のデータを統合します。

  • LLM利用に関する統計データ(Anthropic Economic Indexを含む)

  • 日本国内の経済活動・雇用・教育に関する公的統計・調査データ(業界別生産性データ、Japan O*NET等の職業データ、就業者数データなど)

これらのデータを統合することで、以下のような分析が学術的な手法に基づき継続的に実施・公開される予定です。

  • 日本の各産業領域におけるAI利活用の進展度合いの可視化

  • AIが担うタスクと人が担うタスクの役割分担の変化

  • AI活用度とGDP・雇用・賃金の関係性の検証

  • 業種・職種別の生産性変化の検知

  • AI時代に求められる人材・スキル像への示唆

分析結果は、東京大学が主体となって分析ダッシュボードおよび年次レポートとして公開され、政策・産業・教育の各領域での議論に資する観測基盤として活用される見込みです。これにより、企業のAI投資判断や組織設計、大学・教育機関のカリキュラム設計といった意思決定が支援されるでしょう。

AI利用度指数(利用率/労働人口比)の日本地図
Claudeの利用シェアから推定された労働人口あたりのAI利用の進展度合いは、東京、大阪、神奈川などの首都圏に集中していることが示されています。(Anthropic Economic Index 2026年2月時点のデータより)

職業ごとのAI利用度の国際比較
職業ごとのAI利用度を国際的に比較したデータでは、日本ではコンピューター・数学分野でAI利用が特に高く、教育や芸術・メディアも世界平均を上回る一方、医療や法務は下回る傾向が見られます。

各機関の役割

本協業における各機関の主な役割は以下の通りです。

  • 東京大学 松尾・岩澤研究室: 分析の実施主体として、観測基盤の設計、統計分析、分析ダッシュボード・年次レポートの発出を担い、学術的立場からの中立性を担保します。

  • Anthropic: Japan AI Indexの研究支援のためClaudeを無償提供し、Claude利用に関する統計データとAnthropic Economic Indexに関する知見を共有します。

  • PKSHA Technology: 4,600社を超える導入実績に基づく産業界の現場知見を提供し、Japan AI Indexが実務に役立つデファクト指標へと育成されるよう貢献します。
    PKSHA TECHNOLOGYのロゴ

今後の展望:国内におけるAI活用の共通言語を確立し、人とAIの協働を促進

Japan AI Indexは、2026年度秋を目処に初回のレポートおよびダッシュボードを公開する予定です。今後は分析対象の拡大や参画企業の募集を進めながら、年次レポートや四半期アップデートを通じて定期的に情報発信が行われるでしょう。

松尾研究室、PKSHA、Anthropicは、このプロジェクトを通じて、AIが各業界の働き方をどのように変容させているのかを客観的なデータとして可視化し、政策・経営・人材育成の議論を「事実に基づくもの」へと転換させる環境を整えることを目指します。AIが人の能力を拡張し、可能性を広げる豊かな社会の実現に向け、その土台となるデータを整備し、Japan AI Indexが社会において広く参照される観測基盤として浸透していくことが期待されます。

各機関からのコメント

【東京大学大学院工学系研究科 松尾・岩澤研究室 松尾 豊 教授】
松尾教授は、生成AIの急速な普及において、データに基づき「AIが実際に何を変えているのか」を議論できる基盤の必要性を強調しています。Japan AI Indexが、信頼できるデータを提供することで、政策、企業の経営判断、人材育成の方向性といった議論に確かな根拠を与える一助となることを期待しています。

【株式会社PKSHA Technology 代表取締役 上野山 勝也】
上野山代表取締役は、AIを巡る議論が推進論と過度な不安の両極に振れがちな現状に対し、AIが社会に何をもたらしているのかを客観的なデータで理解することの重要性を指摘しています。Japan AI Indexを通じて、日本独自の産業構造や働き方、価値観に根差したAIとの共生のあり方を議論するための社会インフラを築き、より良い政策や企業の意思決定につなげていきたいと述べています。

【Anthropic Japan合同会社 代表執行役員社長 東條英俊】
東條社長は、安全で有益なAIの構築を使命とするAnthropicとして、米国で公開している「Anthropic Economic Index」の知見を日本固有の産業構造や雇用慣行に即して深化させる取り組みがJapan AI Indexであると説明しています。松尾研究室の学術的中立性、PKSHAの産業実装知見と共に、日本社会におけるAIの責任ある利活用と、一人ひとりの可能性を広げるAI活用を支える観測基盤の構築に貢献していく考えを示しています。

参考リンク