物質調律家・山崎タクマ氏、英Dezeenが選ぶ「注目の若手デザイナー10組」に選出

「物座」の実践:43時間にわたるモノとしての存在

特に評価されたのは、山崎氏が約10年間続けてきたプロジェクト「Bio-Vide」の新作「Becoming Object」です。この作品では、会期中に合計約43時間、自身が“モノ”として座り続ける「物座」という実践が行われました。

落ち葉を再構成した板材で作られた椅子に座り、仮面を装着することで、作家自身が展示物として空間に存在するという、他に類を見ない試みでした。これは単なるパフォーマンスではなく、モノの側に立つことでしか得られない知覚を探求するための深い実践です。

Becoming Object

Dezeenからの高い評価

Dezeenは山崎氏の作品について、次のように評価しています。

ミラノ・サローネでは、日本人デザイナーの山崎タクマが、自身の作品「Bio-Vide」チェアを完成させるために何時間も座り続け、まるでマリーナ・アブラモヴィッチのような瞬間が生まれた。
この家具と身体を融合させた作品は、山崎が10年にわたり取り組んできたリサーチプロジェクトの一側面にすぎない。そのプロジェクトは、アニマシー(有生性)――すなわち、モノが生命のような感覚を獲得する瞬間――を理解しようとする試みに焦点を当てている。
山崎はこれまで、牛骨や皮、リズミカルに膨張するバルーンなどを用いた素材実験を通じて、人間が何を「生きている」と認識するのかを探ってきた。
現在、多くのデザイナーが人間と他の生き物との関係性を探求している中で、この作品はその逆側からの視点で、興味深いアプローチとなっている。

詳細については、Dezeenの記事をご覧ください。
Dezeenの記事

Bio-VideとBecoming Object:境界の探求

「Bio-Vide」プロジェクトは、モノと生命の境界を、生物学的な定義ではなく「有生性(アニマシー)」の観点から探るものです。人間がどのように生命を感じ、どこからモノと認識するのか、その曖昧な境界に山崎氏は素材開発や作品制作を通じて継続的にアプローチしています。

「Becoming Object」では、これまでの“生命側”からの視点を反転させ、作家自身がモノの側に立つ試みがなされました。山崎氏は自身で開発した落ち葉の板材で高さ約1700mmの双子の椅子を制作し、その一脚に、落ち葉でできた仮面を装着した状態で会期中合計約43時間にわたり座り、空間の中で静的な“モノ”として配置されました。

もう一脚には、生成AIを活用した作品「PromPlant / HeartBeat」を展示し、自身の心拍データから生成された植物像を配置。身体、データ、物質という異なる層を対比させました。

chair

山崎氏は「物の側の感覚を知りたかった」と語り、この実践を通じて「初日は、自分が花のように感じられました。5時間も動かないと身体が痺れて感覚が不在になるので、モノと生物の間にいるような感覚です。数日後には、身体や感覚を手放していくような過程の中で、“モノは死体なのではないか”という感覚にも至りました。」と、深い知覚を得たことを明かしています。

最終的に「人間の思考の忙しさや意味付けの多さと、モノと生命のあいだに絶対的な境界はそもそも存在せず、両者ともただ在るだけということです。最後に残ったのは、モノ側からの視点も織り交ぜた、生命の一瞬の輝きを支えるモノをつくるという、自分のスタンスが明確になりました。」と語り、今後の創作活動への明確な指針を見出しています。

山崎タクマ氏 プロフィール

1990年北海道生まれの山崎タクマ氏は、多摩美術大学プロダクトデザイン専攻を次席で卒業後、キヤノン株式会社で精密機器のデザインに携わりました。在職中から自身の哲学に基づく作品制作を行い、国内外のデザインアワードを多数受賞。2021年に独立し、現在は2社を経営されています。

塗装や表面処理の微差まで管理可能なインダストリアルデザイン領域と、自身の思想や哲学を物語として提示する芸術領域を横断する実践の中で「Industrial Artistry」を提唱。2025年にはニューヨークのギャラリーと契約し、マンハッタンにて個展「Industrial Artistry」を開催するなど、国際的に活躍されています。

近年は、宇宙船デザインやスペースコロニー構想、ロボットデザインを中心に、映像、音楽、ファッション、絵本制作へと活動領域を広げ、地球外環境における人間と物質の関係性にもテーマを広げています。

主な受賞歴・展示歴

  • 2016年:Lexus Design Award 2016 受賞、materialPREIS 2016 研究部門 グランプリ

  • 2018年:KOKUYO Design Award 2018 グランプリ/オーディエンス賞

  • 2020年:iF Design Award 2020 受賞、K-Design Award 2020 受賞

  • 2023年:CES Innovation Awards 2023 受賞

  • 2025年:ニューヨークにて個展「Industrial Artistry」開催

  • 2026年:ミラノ「SaloneSatellite 2026」出展、Dezeenによる「注目の若手デザイナー10組」選出

山崎タクマ氏の公式サイトはこちらです。
TAKUMA YAMAZAKI DESIGN 公式サイト