フィジカルAI、IOWN(R) APN、60GHz帯無線LANを活用したコンビナート設備点検の高度化を国内初実証

背景

大規模な工場設備が集積するコンビナートでは、安全・安定稼働を維持するために、設備の定期的な屋外点検が不可欠です。しかし、施設規模が大きい場合、点検作業には多くの時間と労力がかかり、現場作業員の負担軽減は長年の課題となっていました。

NTTグループ、1Finity、三菱ケミカルの3者は、持続可能な社会の実現に向けた取り組みの一環として、IOWN Global Forum(TM)(※3)の活動に参画しています。これまで、IOWN GFパートナー企業と連携し、ロボットを遠隔操作して設備点検を代行する機能や要件を含む「Remote Controlled Robotic Inspection(遠隔操作型ロボット点検)」ユースケースのリファレンス実装モデルの開発を進めてきました。2024年には、IOWN(R) APNを活用した遠隔操作型ロボットとAIによる映像解析を組み合わせた工場点検のモデル実証実験も実施されています。

検証の概要

今回の検証では、IOWN(R) APNとWiGigによる大容量・低遅延通信環境を用いて、自律型ロボットやデジタルツインなどのフィジカルAI技術を活用し、屋外設備点検の高度化を図りました。

具体的には、以下の内容について検証が実施されました。

  1. 三菱ケミカル岡山事業所からNTTグループ東京都内ビル間(約700km)に、IOWN(R) APNとWiGigを組み合わせて大容量・低遅延な通信環境を構築。
  2. この通信環境下で、異なる2台のロボットの遠隔操作および自律走行を実現。
  3. ロボットに搭載したカメラおよびマイクを用いて取得したデータを、低遅延で送信。
  4. 取得した映像データと音響データをリアルタイムにAIで解析し、振動と音に関する異常を検知。
  5. 取得した映像データをAIで解析し、デジタルツイン環境へ反映させて、ひび割れを検知。

検証内容と結果

大容量・低遅延な通信環境の構築

三菱ケミカル岡山事業所からNTTグループ東京都内ビル間(約700km)に、NTTドコモビジネスが提供する「docomo business APN Plus powered by IOWN(R)」を活用し、IOWN(R) APN環境が構築されました。

また、岡山事業所構内には複数のWiGigアクセスポイントが配置され、約150m×150mのエリアで広域無線通信環境が実現しました。さらに、端末主導動的サイトダイバーシティ制御技術(※4)が採用され、WiGig装置を搭載したロボットがエリア外周を走行する際、最適なアクセスポイントを瞬時に選択・切り替えることで、ロボットが動き続けられる安定した環境が実現しました。

本検証で用いた通信環境

ロボットの遠隔操作および自律走行

構築された通信環境を用いて、東京都内ビルにいるオペレーターが、岡山事業所にある四足歩行ロボットの遠隔操作を行いました。ロボットは、人の補助なく150m×150mの外周を一周することに成功しました。また、通信が遮断された場合に、ロボットが安全に停止することも確認されました。

さらに、四足歩行ロボットが自律走行できるかも確認され、ロボットはセンサーのみで地図を生成しながら、自己位置を見失うことなく外周を走行できました。その際、ロボットが障害物(人や物)を認識して回避できることも確認されました。四輪駆動ロボットも、この通信環境で自律走行できることが確認されています。

走行中の四足歩行ロボットとロボットが取得した映像

ロボットに搭載したデバイスを用いて取得したデータの送信

無線通信環境下でロボットが取得した映像データは、岡山事業所から東京都内ビルまで約700KmのIOWN(R) APNを介して送信されました。ロボットが走行中であっても、映像遅延時間は目標の500ms以内を達成しました。

これらの結果から、映像ストリーミングを維持した状態においてもロボットの安定的な自律走行が可能であることが確認されるとともに、ロボットの遠隔監視および制御を支える大容量・低遅延通信環境の有効性が実証されました。

ロボットによる振動と音に関する異常検知の検証

四足歩行ロボットに搭載した非接触のカメラとマイクを用いて、映像データと音響データを同時に取得し、データをAI解析することで、異常を検知できるかが検証されました。

今回、異音(水撃音)のするポンプ機と配管を対象に検証が行われました。ロボットがポンプ機と配管の近くで撮影・集音したデータをAI解析することで、普段とは異なる何らかの異常が発生していることが検知されました。この結果は、配管に取り付けられたセンサーからの数値と目立った差はありませんでした。

これらの結果は、ロボットを用いることでも、ポンプ機に何らかの異常が発生していることを判断するに十分な精度が得られることを示しています。

データ収集中の四足歩行ロボット

映像データからの振動解析の結果 (一例)

音響解析の結果 (一例)

自律型ロボットとデジタルツイン環境を用いたひび割れ点検

自律型の四輪駆動ロボットを150m×150mの外周を一周させることで、3D空間マップを作成し、デジタルツイン環境の基礎が築かれました。

次に、ロボットが取得した高精細なストリーミング映像データは、IOWN(R) APN経由で岡山事業所から東京都内ビルへ送信され、画像認識AIで解析された後に、デジタルツイン環境へ反映されました。

検証では、コンクリートのひび割れ情報がデジタルツイン環境に即時可視化され、当該画像を押下することでひび割れ状況の詳細を確認することができました。その際、映像データ取得からAI解析、デジタルツイン環境への反映までの一連の流れは500ms以下で実現でき、さらに映像伝送におけるパケット損失についても0.1%以下という高い安定性でした。また、将来的にはひび割れに進展する可能性のある微細なひび割れを検出できることも確認されました。

これらの結果より、自律型ロボットやデジタルツインなどのフィジカルAI技術を活用した遠隔地からのリアルタイム設備点検および予兆監視の実現可能性が示されました。

デジタルツイン環境とひび割れ検知

今回の検証結果

大容量・低遅延環境の構築を通じ、以下の事項について実証が行われました。

  • データ取得と並行したロボットの安定的な自律走行の実現

  • 自律型ロボットおよびデジタルツイン等のフィジカルAI技術の活用による、遠隔地からのリアルタイム設備点検および予兆監視の実現可能性

これらの技術は、点検人員の拠点集約や、複数拠点の点検の並行実施を可能とし、コンビナート等の工場設備を点検する作業員の負担軽減に貢献することが期待されます。

今後に向けて

現場作業員の負担軽減に対する本格的な推進に向けては、映像、音響、臭気、温度などの多様なデータを統合した「人に代わる認知機能」をさらに高める必要があります。今後、マルチモーダルAI(※5)処理に対応したコンピューティング基盤の高度化に向けて、さらなる実証が行われる予定です。

各社のコメント

NTTドコモソリューションズ株式会社 執行役員 ネットワーククラウド事業本部 IOWN推進部長 北田 祥規 氏
「本実証は、IOWN(R)構想がめざす次世代通信基盤とロボット・AI・デジタルツインの融合により、産業インフラの在り方を変革する可能性を示すものです。リアルタイムでのデータ収集・解析・可視化を一体的に実現することで、遠隔からの高度な設備点検や予兆監視による『現場の安全性向上および作業負担の軽減の実現』に向けた大きな一歩となりました。今後、本技術がさまざまな産業分野へ展開され、持続可能な社会の実現に貢献することを期待しています。」

株式会社NTTデータグループ 技術革新統括本部Innovation技術部長 稲葉 陽子 氏
「NTTデータグループは、中期経営計画において掲げる技術戦略にて、技術の成熟度に応じたEmerging、Growth、Mainstreamの3つの領域における活動を推進しており、イノベーションセンタではお客様との共創による新たなビジネス創出に取り組んでいます。本実証により、フィジカルAIと次世代の通信技術を掛け合わせ、遠隔・自律型ロボットによる設備点検の自動化に向けた可能性を確認しました。今後、現場データとフィジカルAIを統合した価値創出を通じて、設備保全の高度化と現場の変革を実現し、産業分野における持続可能なスマートメンテナンスの実現と現場の課題解決に貢献してまいります。」

関連情報

用語解説

  • ※1 IOWN(R) APN: NTTが提唱するAll-Photonics Network (APN) の一環で、従来の電気信号ではなく光信号を用いて超低遅延かつ高速な通信を実現する次世代のネットワーク技術です。「IOWN(R)」はNTT株式会社の商標または登録商標です。

  • ※2 WiGig: Wireless Gigabitの略で、IEEE 802.11ad規格に基づいた60GHz帯を用いる無線LAN規格です。

  • ※3 IOWN Global Forum(TM): IOWN構想を実現することをめざして設立された国際団体です。現在、170を超える企業・団体が参画しています。

  • ※4 端末主導動的サイトダイバーシティ制御技術: NTTアクセスサービスシステム研究所にて開発が進められている、高速移動体に対して無瞬断で大容量伝送を行うことを可能とする無線通信技術です。

  • ※5 マルチモーダルAI: 実現したい内容に応じて、さまざまな種類の入力データを利用して統合的に判断ができるAIです。モーダルとは、AIに対する入力データの種類(映像、音、テキストなど)を指します。

外部リンク

検証における3者の役割