慶應義塾大学が「AI×学生×地域産業」で長野県岡谷市のシルクフェアを彩る

長野県岡谷市で「AI×学生×地域産業」が織りなす未来:慶應義塾大学がシルクフェアを彩る

かつて日本有数の製糸業の中心地として栄えた長野県岡谷市で、2026年4月29日(水・祝)に開催された「2026シルクフェアinおかや30th」において、慶應義塾大学経済学部・藤田康範研究会の学生による特別な企画が注目を集めました。岡谷市の「岡谷シルク」ブランド化推進と連携して行われたこの取り組みは、AI技術、学生の創造性、地域産業、そして歴史文化資産を融合させ、シルク文化の新たな可能性を提示しました。

新茶振舞式典

AIと学生、地域の職人技が融合したウェディングドレス

オープニングセレモニーでは、藤田研究会のゼミ生である原田穂香さんが、自身で制作した「岡谷シルク」のウェディングドレスを着用して登場しました。岡谷市長をはじめとする関係者へ花束とシルクのコサージュを贈り、30回目の節目を迎えたシルクフェアを華やかに祝いました。

このドレスは、縄文時代の「貫頭衣(かんとうい)」をモチーフに、生成AIを活用してデザインと型紙制作が行われました。縫製は岡谷絹工房の宮坂早苗さんが協力し、裁断、縫製の実作業は約1日で完成しました。ドレス生地には、岡谷産の繭を株式会社宮坂製糸所で糸にし、ブライダルドレスの最高級生地として知られる「ミカドシルク」で有名な山形県の行方織物有限会社が織り上げたものが使用されています。ドレス制作の経験がない学生が、AIのアイデアと職人の技術を組み合わせることで、シルクの美しさが際立つシンプルな作品を完成させ、「伝統と革新」を象徴する取り組みとして会場から大きな拍手が送られました。

ウェディングドレス披露
ドレス制作風景

歴史的建造物で響く弦楽の調べ:文化財活用の新たな可能性

同日、岡谷市旧市庁舎では、藤田研究会のゼミ生で若手ヴァイオリニストの鍋島優歌さんによる弦楽ミニコンサートが開催されました。1936年(昭和11年)に建築された旧市庁舎は、「シルク岡谷」を象徴する歴史的建造物で、近年は映画『ゴジラ -1.0』のロケ地としても使用され、その存在が広く知られています。

弦楽ミニコンサートの様子
ヴァイオリニスト鍋島優歌さん

鍋島さんは、クラシック音楽を通じて起業を目指しており、「また来たい」と思える体験作りを大切に、演奏曲目からアンケートまで自ら企画しました。クラシックの名曲や岡谷にゆかりのある楽曲が演奏され、参加者からは「音の響きが壮大」「心が洗われた」といった絶賛の声が多数寄せられました。このコンサートは、文化財建築空間が特別な音楽体験を生み出す場となり得ることを示し、文化資産と芸術の融合による新たな価値創出の可能性を提示しました。

AIが紡ぐ地域の記憶:工女さんの生活をアニメーションで未来へ

慶應義塾大学経済学部の藤田康範教授は、「岡谷は、日本の産業革命を支えた製糸業の中心地です。本プロジェクトは、その歴史を未来につなぐ試みでもあります。AIや若い感性を掛け合わせることで、地域の価値はさらに広がると考えています」と語っています。次なる取り組みとして、岡谷の製糸業を支えた「工女(こうじょ)さん」の生活をテーマに、生成AIを活用したアニメーション制作を進めています。

慶應義塾大学 藤田康範教授

藤田教授は「AIを活用することで、文字や資料だけでは伝わりにくい当時の暮らしや息遣いを、映像として次世代に届けることが可能になります。地域の記憶を未来につなぐ挑戦としてこれからも取り組んでいきます」と述べています。今後も藤田研究会では、岡谷の地域資源を活かした活動を継続し、文化と産業の新たな可能性を発信していく予定です。

関係者からのコメント

  • 岡谷市産業振興部ブランド推進室室長 小平寛氏: 「第30回を迎えた『シルクフェアinおかや』では、藤田康範研究会の皆様に、『岡谷シルク』のウェディングドレス披露や旧岡谷市役所庁舎での弦楽コンサートを実施いただき、開催に大きな華を添えていただきました。岡谷市では『岡谷シルク』のブランド化を進めていますが、現在制作中の工女さんにフォーカスしたAIアニメなど、学生たちの発想から岡谷の製糸の歴史文化と『今』を発信できることは、『岡谷シルク』のブランド化を進める上で大きな後押しとなり、今後のさらなる展開を非常に楽しみにしています。」

  • 岡谷蚕糸博物館館長 髙林千幸氏: 「岡谷の製糸業は、明治から昭和初期にかけて革新的な製糸機械を開発・発展させるとともに、世界一の生糸生産量・輸出量を誇り、日本の近代化に大きく貢献しました。慶應義塾大学経済学部の藤田康範教授には、こうした岡谷の歴史に心を寄せていただき、『岡谷は日本の産業革命の発祥の地』と言って頂いています。先生はこの岡谷に研究室(旧山一林組事務所内)を設け、『岡谷シルク』の発信と次世代につながる新たな文化創造に取り組まれており、私たちも先生の秘めている斬新で奥深い発想を『岡谷シルク』の推進に活かしていきたいと思っています。」

  • 岡谷市企画政策部企画課主任 小山健介氏: 「初めてのトライアルイベントとしてヴァイオリンコンサートを行いましたが、満席となった会場では、想像以上のすばらしい響きに涙する方もいらっしゃいました。また、『ゴジラのメインテーマ』の演奏には聖地巡礼のゴジラファンも大喜びでした。アンケートにもコンサート会場としての活用希望も多く、旧岡谷市役所庁舎の新たな魅力と可能性を発信することができました。」

慶應義塾大学藤田康範研究会の岡谷での取り組み

「感動を設計する」をテーマに活動する慶應義塾大学経済学部・藤田康範研究会は、2023年より岡谷市の旧山一林組製糸事務所(国登録有形文化財)に研究拠点を設置しています。これまでに、岡谷の製糸業の歴史を学ぶカードゲームの開発など、地域と連携したプロジェクトを展開してきました。現在は岡谷蚕糸博物館と連携し、岡谷の製糸業を支えた「工女(こうじょ)さん」の生活をテーマに、生成AIを活用したアニメーション制作を進めています。史実に基づきながら、現代の若者にも共感されるストーリー性を持たせた作品づくりを目指しており、地域の歴史を現代の技術で再解釈し、次世代に伝えていくことに重点が置かれています。

「2026シルクフェアinおかや30th」概要

岡谷市では毎年4月29日を「シルクの日」とし、シルク文化と産業の魅力を広く発信するイベントを開催しています。今回で30回目を迎え、地域の歴史と未来をつなぐ節目の年となりました。岡谷蚕糸博物館および周辺エリアでは、シルク製品の展示・販売、機織りや糸取りなどのワークショップ、バスツアーやスタンプラリーなどが実施され、多くの来場者で賑わいました。

シルクフェア30周年記念撮影

国登録有形文化財・岡谷市旧市役所庁舎 概要

1936年(昭和11年)に市制施行にあわせて製糸家・尾澤福太郎の寄附によって建設された旧市役所庁舎は、「シルク岡谷」の歴史を象徴する国登録有形文化財です。1987年(昭和62年)まで市役所庁舎として使用され、市民に親しまれてきました。近年は耐震補強や内装復元が行われ、歴史的価値を維持しながら新たな活用方法が模索されています。2023年には映画『ゴジラ -1.0』のロケ地としても使用され、広く知られるようになりました。普段は一般公開されていませんが、今回は保存活用を考えるトライアルイベントとしてミニコンサートが実施されました。

岡谷市旧市役所庁舎 外観

岡谷シルクについて

「岡谷シルク」は、長野県岡谷市を拠点とする地域ブランドで、同一市内で養蚕から製糸、製品化までの一連の取り組みを行っています。国内の養蚕農家や製糸工場が減少する中、岡谷市は養蚕農家、製糸工場、機織り工房が同一市内に存在する希少な地域です。「岡谷シルク」ブランドとして地域資源を活用した製品の認証や、岡谷蚕糸博物館を軸とした教育・体験プログラムの提供を通じて、国産生糸の歴史的価値と文化を発信することを目指しています。

繭
糸繰り作業
機織り

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