サヴォアフェール(実践知)とは
「サヴォアフェール」はフランス語の「savoire(知る)」と「faire(作る)」を組み合わせた言葉で、一般的には「匠の技」と訳されます。しかし、その真髄は「長年の歴史により培われた、職人技と独自の美意識、そして審美眼」という、より深い意味合いを含んでいます。
シンポジウム登壇者と主要テーマ
シンポジウムでは、多様な視点から「サヴォアフェール」の未来が語られました。
日仏の共通価値:国際ファッション専門職大学 近藤誠一学長

冒頭、国際ファッション専門職大学の近藤誠一学長(元・文化庁長官)は、科学技術と文化芸術を最高レベルで両立する日仏両国が、「サヴォアフェール」を磨く意義を強調しました。テクノロジーを活用しつつも、人間本来の知恵を示すこの実践知こそが「未来への回答」となると述べられました。
サヴォアフェールを「戦略的資産」へ:国際ファッション専門職大学 平野大准教授


平野准教授は、日仏のファッション産業における「サヴォアフェール」を、単なる技術継承に留まらず、未来を切り拓く戦略的資産として再定義する必要性を提示しました。日本の職人文化とフランスの制度的な継承モデルを比較し、後継者不足やデジタル化、生成AIといった共通課題に対し、両国の知見を繋ぐ重要性を指摘。伝統技術を社会的・経済的価値に結びつけるCSV(共通価値の創造)の視点から、新たな価値創造の可能性について論じられました。
生成AIは「新しいクラフト」である:IFM 研究部ディレクター ベンジャミン・シムノーア氏

IFMのベンジャミン・シムノーア教授は、クリエイティビティを「革新性・妥当性・個性」の三要素で定義し、デザインとクラフトの相互作用について考察しました。創造性は技術的制約の中で最適な判断を下し、その制約を再定義するプロセスであると指摘。生成AIを「人間の代替」ではなく、新たな制約を伴う「新しいクラフト(技法)」と位置づけ、AIとの対話を通じて生まれるハイブリッドなデザインの事例を紹介されました。
身体知と物語が交差する博物館の役割:エミリー・アマン氏 パリ市立モード美術館「パリ・ガリエラ」館長

パリ市立モード美術館「パリ・ガリエラ」のエミリー・アマン館長は、サヴォアフェールを巡る研究史と、自身の関わる論文集や展覧会について発表しました。「服は完成品だけでは真の価値が分からない。職人の手つきや工房の空気など、目に見えないプロセスこそが重要」と語り、博物館の役割は、単に服を展示するだけでなく、そうした「職人のドラマ」を物語として伝える場所であるべきだと提案されました。
470年の伝統を「更新」する:加藤結理子氏 千總文化研究所 所長

京都の千總文化研究所の加藤結理子氏は、約470年にわたり染織を続けてきた千總の歴史を紐解きながら、技術継承と創造性について発表しました。千總が時代や社会の変化に応じて製品や技法を更新してきた歩みを紹介し、友禅や桶出し絞りなどの技術分析を通じて、手仕事・機械・デジタルそれぞれの特性と限界を検証。技術の価値は優劣ではなく「何を表現できるか」にあるとし、人にしか担えない創造性を再考する重要性を示されました。
パネルディスカッション:日仏の「産地」と「職人」、そしてAIとの共生
シンポジウム後半のパネルディスカッションでは、現場の課題と未来が語られました。エミリー・アマン氏は、フランスの職人環境がパリに集中し、LVMHやシャネルといったメゾンが工房を保護してきた歴史を説明。対して平野准教授は、日本独自の「職人への尊敬の念」や人間国宝制度が、技術継承における強固な社会的インフラになり得ると指摘しました。
また、「生成AIは創造性を奪うか」という問いに対し、ベンジャミン教授は「AIは単なるツールではなく、予測不能なアウトプットをもたらす『対話の相手』である」と定義。一方、千總文化研究所の加藤氏は、AIが生成したデザインには人間の「呼吸」がないため、手仕事で再現しようとすると不自然になり、職人にとっても再現しづらいものになるという、身体知の重要性を指摘しました。
しかし、両者は「AIにどのような『栄養(過去の知見や文脈)』を与えるか」が重要であるという点で一致。AIを思考の拡張として使いつつ、最終的な審美眼は人間が担うという、新しいものづくりのサイクルが示されました。
継承される問い
最後に近藤学長は、「AIという存在と向き合うことで、かえって人間ならではの価値や、私たちが大切にすべき心の境界線がどこにあるのかが、よりはっきりと見えてきたように感じます」と総括しました。
この国際シンポジウムは、次回パリで開催される予定です。
国際ファッション専門職大学について

国際ファッション専門職大学は、東京・大阪・名古屋に加え、パリ(CREAPOLE、ESMOD)やニューヨーク(LIM College)にもキャンパスを構える、日本で唯一のファッション・ビジネスの専門職大学です。2019年4月に開学し、「服の、先へ。」という理念のもと、服づくりに留まらず、その先のライフスタイルや文化、コミュニケーションにまで、「クリエイション」と「ビジネス」で世界に変革をもたらす人材を育成しています。全員が海外のファッション現場を経験する「海外実習・インターンシップ」や、世界のトップブランドとの連携など、「今までにない学び」が特徴です。卒業時には、国際通用性のある「学士」の学位が取得できます。
詳細については、国際ファッション専門職大学の公式サイトをご覧ください。
