全国初「学校版ソーシャルインパクト評価」が誕生 – 岡山県立高梁城南高校とJONANホールディングスが協働

背景:企業で進む「インパクト評価」、教育では未整備

近年、企業分野では「ソーシャルインパクト評価」や「インパクト投資」といった考え方が広がりを見せています。これは、企業が利益だけでなく、社会にどのような価値を生み出したかを重要な評価軸とする動きです。

例えば、多拠点生活サービスを展開するADDress株式会社では、多拠点生活が地域にもたらす関係人口などの社会的インパクトを可視化し、事業評価に活用しています。

参考:多拠点生活サービスADDressの社会的インパクト

しかしながら、教育分野においては、このような社会的インパクトを評価する手法が十分に整備されていませんでした。

課題:探究・ビジネス活動の成果をどう測るか

教育現場では、探究学習や地域連携の成果が「成長した」「地域に貢献した」といった定性的な評価に留まり、その価値が十分に伝わらないという課題がありました。

探究・ビジネス活動の成果測定における課題

特に、岡山県立高梁城南高等学校が設立した「高校生の株式会社」JONANホールディングス株式会社のビジネス活動において、以下のような問いが現場から生じていました。

  • 高校が設立した株式会社の成果は「利益」だけで良いのか。

  • 地域や社会に与えている影響は、他にもあるのではないか。

  • 最終的な成果である起業人材や地域の担い手の輩出には時間がかかる中で、その手前の変化をどのように捉えるべきか。

  • 継続的な支援や出資を得るために、何を可視化すべきか。

これらの課題を踏まえ、「学校版ソーシャルインパクト評価」の開発と岡山県立高梁城南高等学校での実証が進められました。

「学校版ソーシャルインパクト評価」の3つのポイント

ポイント①「利益の手前」を可視化する評価設計

本評価では、従来の「利益中心の評価」を見直し、活動のプロセスに着目した新たな指標が設計されました。具体的には、「交流」「感謝」「貢献」「売上」「利益」といった流れを分解し、利益に至るまでの過程そのものを評価対象としています。

利益の手前を可視化する評価設計

交流した人数、「ありがとう」と言われた回数、挑戦や失敗の数、生み出したプロジェクトの数といった中間指標を設定することで、社会的インパクトを多面的に捉えることが可能になりました。

ポイント② 高校生の意識変化を評価

生徒の意識変化も重要な成果として位置付けられています。「どのような人材を育成したいのか」「どのような社会を実現したいのか」という最終的な目標から逆算し、必要な意識変化や行動変化が設計されています。

将来的に、起業人材、事業承継する人材、クリエイター人材、地域社会の担い手となる人材が育つためには、その手前段階として、失敗を前向きに捉え挑戦を続けられること、地域への意欲を持つこと、将来も地域と関わりたいという意識を持つこと、地域に信頼できる人がいると感じられること、といった意識変化が必要であると整理されました。これらは「中間アウトカム」として指標化され、生徒の内面的な変化と行動の変化が可視化されています。

ポイント③ 大人の変容を評価(社会を動かす波及効果)

本取り組みの特筆すべき点は、高校生の活動を契機とした「大人の変容」も評価対象としていることです。

生徒の挑戦に触れた地域の大人が、モチベーションや意欲を高め、若い世代を応援したいと感じ、自ら地域に関わろうとし、新たなアクションを起こそうと意欲喚起されるといった意識変容・行動変容が起こります。これは、高校生の行動が大人たちの意識と行動を変え、地域社会全体の変化を加速させるという、大きな社会的インパクトです。本評価では、このような大人の意識変化も指標として位置付け、教育活動が生み出す波及効果まで含めて可視化しています。

開発プロセスとロジックモデル図

本評価の全体像は、以下のロジックモデル図の通り整理されています。

ロジックモデル図

このモデルでは、「インプット(資源)」「アクティビティ(活動)」「アウトプット」「中間アウトカム(成果)」「最終アウトカム(成果)」という一連の流れで、探究学習およびビジネス活動が社会にどのような影響を与えるかを構造的に整理しています。

地域企業や学校、資金などの資源をもとに活動が実施され、プロジェクト数や交流人数といった具体的なアウトプットが生まれます。その過程で、「交流の発生」「感謝の発生」「挑戦の発生」などの中間的な変化が生じ、これらが生徒や大人の意識変化へとつながり、最終的には起業人材や地域の担い手の輩出、地域社会への価値創出といった成果へと結びつきます。利益だけでなく、その手前にあるプロセスや副次的な効果、大人の変容まで評価対象としている点が、このモデルの大きな特徴です。

半年間の実証結果

本評価は、岡山県立高梁城南高等学校において実証が行われ、探究学習の最終発表における17チームの活動と、JONANホールディングス株式会社の約半年間の活動に適用されました。2025年7月から2026年2月にかけての活動では、以下のようなソーシャルインパクトが確認されています。

活動の評価(地域・社会への波及効果)

  • 活動の広がり

    • 延べ1,220人との交流

    • 20団体との連携

    • 24件のプロジェクト創出

    • 7件の大きな失敗(トライ&エラー)※小さな失敗は約50件

    • 50件以上の「ありがとう」の発生

  • 経済的成果

    • 資金調達額:約47万円(現在時点)

    • 売上:21万円(見込み)

    • 粗利:4万円(見込み)

  • 社会的・広報インパクト

    • メディア露出等による推定リーチ:2,000万〜3,000万人

これらの結果は、教育活動とビジネス活動の両立が実現されていることを示しています。

高校生の意識変容

  • 挑戦への意欲:95.7%

  • 失敗をポジティブに捉える:89.3%

  • 地域への継続的な関与意欲:80.6%

  • 大人とのつながりを実感:79.6%

(2026年2月時点で岡山県立高梁城南高等学校の3年生93名へのアンケート調査結果)

大人の変容

関わった大人においては、モチベーションの向上を100%が実感しており、高校生の活動が地域社会に与える影響の大きさが明らかになりました。

本取り組みの意義

この取り組みは、高校と高校生の挑戦を社会的価値として可視化することで、支援や出資の根拠を生み出し、持続可能な教育活動と地域との関係性を構築する基盤となるものです。また、最終成果に至るまでの中間指標を示すことで、教育と社会をつなぐ時間的ギャップを埋める役割も果たします。

アドバイザリー

本取り組みは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 上席主任研究員である阿部剛志氏による、ソーシャルインパクト評価設計・ロジックモデル開発の助言・協力のもと開発されました。

今後の展開

今後は、本評価の全国展開や自治体との連携、教育分野におけるインパクト投資の可能性の検証、データの蓄積による評価精度の向上を進めていく予定です。

今後の展開

会社及び関係者概要

  • JONANホールディングス株式会社

    • 岡山県立高梁城南高等学校と連携して設立された高校連携型株式会社です。生徒の探究活動をビジネスとして実装し、地域との資金循環モデルの構築を目指しています。

    • 詳細URL:JONANホールディングス株式会社

  • 岡山県立高梁城南高等学校

    • 電気科・デザイン科・環境科学科の3学科を有する専門高校です。「ものづくり×ビジネス×地域連携」による探究学習を推進しています。

    • 学校公式サイト:岡山県立高梁城南高等学校

  • 高梁まなびとしごと未来共創コンソーシアム

    • 岡山県立高梁城南高等学校の株式会社設立プロジェクト(JONANホールディングス株式会社)とその運営を地域で支援、協働・共創していくために発足した地域コンソーシアムです。

    • 設立:2025年7月

    • URL:高梁まなびとしごと未来共創コンソーシアム

経済産業省 令和7年度「未来の教室」実証事業にも採択されています。