孤高の作家が歩んだ32年間の軌跡
阿部和重氏は1994年のデビュー作「アメリカの夜」以来、『シンセミア』や『グランド・フィナーレ』、『ピストルズ』など、数々の文学賞を受賞し、現代日本文学史において重要な作品を発表してきました。現実社会と物語の間に生じる歪みを深く見つめ、その危うさの中に生きる人間の純粋さを描き出す姿勢は、多くの読者を魅了しています。
本書は、阿部氏がデビューから現在に至るまで、新聞、週刊誌、文芸誌、ファッション誌、映画雑誌、パンフレット、文庫解説、ウェブマガジンなど、多岐にわたる媒体で執筆した全157篇の文章を集成したものです。原稿用紙にして1,300枚にもおよぶ膨大なテキストは、氏の思考の深さと広がりを物語っています。
多彩なテーマが織りなす思考の世界
『阿部和重覚書 1990年代-2020年代』では、映画、文学、漫画、音楽、アイドル、アメリカ、そして社会で起きた様々な事件報道まで、幅広いテーマが扱われています。特に注目されるのは、「物語はどのように現実を形づくるのか」「現実はどのように物語化されるのか」という問いが繰り返し提示されている点です。
本書の目次からは、以下のような多様な視点からの考察が垣間見えます。
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創作について: 自身の作品に対する深い洞察や、創作の過程における思考が綴られています。
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現代映画と疑似ドキュメンタリー問題: 映画における「リアリティー」の追求や、ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ、ヴィム・ヴェンダース、ゴダール、黒沢清、青山真治といった国内外の監督作品への言及があります。
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漫画覚書: あだち充作品や『頭文字(イニシャル)D』、『監獄学園(プリズンスクール)』など、漫画文化に対する独自の視点が展開されます。
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文学者への追悼と考察: 大江健三郎、蓮實重彥、中上健次、大西巨人、後藤明生、谷崎潤一郎といった文学界の巨匠たちへの敬意と、その作品への綿密な分析が収められています。
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アイドルとアディクション: 現代社会における現象や、個人の内面に深く切り込むテーマも含まれています。
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DIARYと災禍、COVID-19: 日記形式で綴られた同時代への記録や、社会的な出来事に対する阿部氏の思索が読めます。
これらの多角的な視点から展開される思索は、私たちが生きる「いま」を理解するための貴重な知見を与えてくれるでしょう。情報が氾濫し、分断が進む現代において、確かな思考の記録として、本書は切実な意味を持つと言えるでしょう。
装丁は、デビュー当時からの盟友であるグラフィックデザイナーの常盤響氏が手掛けています。
書誌情報
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書名:阿部和重覚書 1990年代-2020年代
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著者:阿部和重
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仕様:46判変形/上装/736ページ
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発売⽇:2026年3⽉27日
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税込定価:4,950円(本体4,500 円)
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ISBN:978-4-309-03255-9
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装丁:常盤響
詳細については、河出書房新社のウェブサイトをご覧ください。
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309032559/



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